2025/10/09

商標的使用と説明的表示の境界を明示した判決(BIO✙SKIN商標事件)

商標 知的財産及び商業裁判所

   台湾の商標法において、商標権侵害[1]とは、商標権者の同意を得ずに、指定商品・役務若しくはこれに類似する商品・役務について登録商標若しくはこれに類似する商標の使用をすることであり、その中でも訴訟において、その使用態様が商標的使用の定義[2]に該当するか否かが問題となることが多い。商標的使用の定義に該当する場合であっても、商標法第36条に規定される(1)記述的合理使用(2)指示的合理使用(3)善意先使用(4)商標権消尽のいずれかに該当する場合には、他人の商標権の効力が及ばない。本稿は、記述的合理使用が争点となった刑事事件を紹介する。

 

  事件の概要

 

  商標権者「伊詩嘉国際企業有限公司」は、「化粧品、シートマスク」等を指定商品とする登録商標「BIOSKIN」(文字商標、登録番号01802917号)に係る商標権を有し、マレーシア籍の自然人(以下、被告とする)が経営する法人がネット販売する指定商品「シートマスク」のパッケージに「BIO✙SKIN」と表示した行為は、自社の登録商標に類似し、消費者に出所混同を生じさせると主張した。これにより、被告の行為が商標権侵害を構成するとして、商標権者は被害者として、検察官を経由せずに自ら裁判所に刑事訴訟を提起した後、一審である台湾橋頭地方裁判所[3]は無罪判決を言い渡し、二審である知的財産及び商業裁判所[4]は、一審の判断を支持し、原告である商標権者の控訴を棄却し、被告の無罪判決が確定した。

 

  被告の使用商品

商品パッケージの表

商品パッケージの裏

 

  裁判所は、一審から二審を通じて、被告が使用している商標は、「BIO✙SKIN」ではなく、「猫の図形とUNICATの文字からなる図形商標」であると認定した。そして、「BIO✙SKIN」については商標法第36条第1項第1号[5]に規定される記述的合理使用に該当するため、本件商標権の効力が及ばないと判断した。その理由は、次の通りである。

 

  1. 被告は登録商標を保有

 

  被告が登録商標「 」(第02361969号)を有しており、構成要素の一部たる中国語「變臉貓」(日本語訳:変顔猫)の有無において相違があるものの、「シートマスク」のパッケージの表面に表示された猫の図形とUNICATの文字からなる図形商標「 」が最も目立ち、注意を引きやすい部分(中央上方に配置され、最も目立ち、最大の比率を占める)、即ち消費者が出所を識別する主要な識別部分であるといえる。

 

  さらに、パッケージ背面には、被告の別の登録商標「 」(第01664754号)が会社情報付近に表示されているため、当該登録商標が消費者が出所を識別する主要な識別部分であるといえる

 

  そして、これら商標は、様々なオンラインショッピングプラットフォームで販売されている商品の商標と一致していることから、被告のブランドであることが明らかである。

 

  したがって、被告の使用商標は、「BIO✙SKIN」ではなく、登録商標と同様のものであるといえ、これらは、商標権者の登録商標「BIOSKIN」と非類似である。

 

  2. 「BIO✙SKIN」は説明的表示

 

  「BIO」は「Biology(生物)」の略で、生物技術関連製品に頻出する語である[6]。「SKIN」は「皮膚」を意味し、商品の用途を表す。これらを組み合わせた「BIO✙SKIN」は、フェイスマスクやスキンケア製品において成分や効能を説明するための複合語であり、商標的使用とはいえない。さらに、その下には「敏感肌用」と記された韓国語が併記され、商品の効能を補足していることから、「BIO✙SKIN」は、成分や効能を説明するために用いられていることが明らかである。

 

  3. 出所混同の虞、故意なし

 

  被告は他製品で「BIO✙SKIN」を一切使用しておらず、関連消費者を誤認・混同させる意図、さらには、刑事事件の商標権侵害の要件とされている故意は認められない。

 

  当所コメント

 

  化粧品業界では「BIO」「SKIN」「NATURAL」などの一般語を組み合わせた記載が多用され、ブランド名との境界がしばしば問題となる。本判決は、使用商標と説明的表示の認定方法を考える上で有益な示唆を与えるものといえる。特に、被告が登録商標を有している場合、使用商標は登録商標であることを積極的に主張できる点が確認された。本件の「BIOSKIN」のように、登録可能な商標であっても記述的要素を多分に含むものは、わずかに「✙」を加えただけで非商標的表示と判断される可能性があることがあるため、記述的文字に近い商標は権利範囲が相対的に狭いことが示されたといえる

 

[1] 商標法第68条、第95条。日本とは異なり、台湾では、類似範囲については出所混同要件が課される。

[2] 商標法第5条。

[3] 台湾橋頭地方裁判所112年度自字第2号刑事判決(2024年10月7日)。

[4] 知的財産及び商業裁判所114年度刑智上易字第4号刑事判決(2025年4月30日)。

[5] 次に掲げる場合には、他人の商標権の効力が及ばない。一、商業取引の慣習に符合する誠実かつ信用ある方法で、自己の氏名、名称、またはその商品または役務の名称、形状、品質、性質、特性、用途、産地またはその他商品または役務自体に関する説明を表示するものであって、商標として使用しない場合。

[6] 裁判所は、Shopeeショッピングサイトで「bio」という3文字を検索した結果、3321件の商品が総合機能保健、1720件の商品が清潔保養に分類されていた事実を、商取引の慣行に即した誠実かつ信用ある方法で商品の品質を説明する行為であることを裏付ける材料として採用している。

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