医薬品特許の延長期間における後発医薬品の適応症排除による回避
台湾専利法第56条は、特許主務官庁によって特許権存続期間延長が認められる範囲は、許可証に記載された有効成分および用途によって限定された範囲のみに及ぶと規定している。したがって、延長期間における権利範囲は、元の権利範囲とは異なり、医薬用途特許と同等であり、延長登録出願の根拠となる許可証、および「特許権者が許可証申請のために特許の実施が遅延した期間を補償する」という立法趣旨に合致するか否かをさらに参酌する必要がある。
2019年8月にパテントリンケージ制度が導入されて以来、後発医薬品は、その対照となる先発医薬品の特許権に対して非侵害声明[1](実務上「P4声明」と呼ばれる)を提出する必要があり、これにより関連する紛争の早期解決が可能になった。一方で、後発医薬品メーカーが特許権侵害を回避しようとする場合には、適応症を排除(carve-out)する方法を利用することもでき、これは薬事法第48条の20第2項第2号[2]に明文化されている。以下では、最近の知的財産及び商業裁判所(以下「知財裁判所」という)の判決[3]を紹介し、実務においてどのように適応症排除を通じて先発医薬品の特許を回避しているのかについて説明する。
A社は特許権者であり、本件特許権の存続期限は2021年1月9日に満了し、5年間の延長期間に移行した。延長登録の根拠となった許可証を参照すると、許可された延長期間における権利範囲は「エストロゲン受容体陽性の局所進行または転移性乳癌の閉経後女性の治療(内分泌療法未実施)のためのフルベストラント」(一次治療、以下「適応症1」という)に限定される。B社は後発医薬品メーカーであり、本件後発医薬品の有効成分もフルベストラントであり、添付文書に記載された適応症は「エストロゲン受容体陽性の局所進行または転移性乳癌の閉経後女性の治療(補助療法として抗エストロゲン療法を受けたが疾患が再発した、または抗エストロゲン療法を使用したが疾患が悪化した)」(二次またはそれ以降の段階の治療、以下「適応症2」という)だった。A社は2023年4月にB社のP4声明を受領した後、訴訟を提起した。A社は、本件後発医薬品の適応症は添付文書に記載されていないものの、医師が適応外使用(off-label use)をする可能性があるため、適応症1も含まれており、侵害の恐れがあると主張し、侵害の防止を求めた。
知財裁判所は、まず許可証の部分について調査を行った。本件先発医薬品は2006年1月25日に許可証を取得し、添付文書に記載された適応症は適応症2だった。その後、2018年4月26日に適応症の追加変更申請が許可され、適応症1が追加された。A社はその後、この変更後の許可証と適応症1に関する臨床試験結果を根拠に特許延長登録を出願した。裁判所は、新しい臨床試験は一次治療を対象としており、許可証申請によって特許の実施が遅延したことに対して補償される範囲は、当然ながら一次治療にのみ及ぶと説明した。また、本件先発医薬品の添付文書に記載された臨床試験データと照合すると、本件後発医薬品の添付文書には一次治療に関する臨床試験が一切引用されておらず、両者は臨床治療の実務上明確に区別できるだけでなく、臨床試験も明確に区別できるため、本件後発医薬品は本件特許の延長期間における権利範囲に該当しないと判断した。
知財裁判所は、原告が提出した他の主張についても、採用できない理由を1つずつ述べた。
1. 適応外使用による侵害の恐れについて:
まず、原告は、過去の主務官庁が定めた適応外使用に関する規定を提出するとともに、臨床実務を説明させるための証人として医師の召喚を申請し、医師が適応外使用をする可能性がある以上、侵害の恐れをすでに構成していると主張した。
これに対し裁判所は、台湾の健康保険関連規定では、「医薬品許可証に記載された適応症に合致しない」場合は、健康保険の給付対象外となる医薬品と定められており、また、医薬品販売業者が添付文書に記載された適応症外の使用を促進することも禁止されていることから、承認範囲内使用と適応外使用は区別されるべきであり、医師が添付文書に記載された適応症に従って処方するのが原則的かつ通常のやり方であることが分かる。被告が一次治療の臨床試験結果を引用しておらず、添付文書にも医療従事者に対して本件後発医薬品を一次治療に使用することを教示していない以上、医師の個人的な行為によって、直ちに侵害の恐れが生じるとは言えないと説明した。
2. 作用機序の同一性について:
原告は、本件薬物の活性成分が適応症1または適応症2のどちらに使用される場合でも、乳癌治療において同じ作用機序を利用しており、生物学的な意味で違いはないと主張した。
これに対し裁判所は、本件特許医薬品が2018年4月に適応症1の追加が許可される前は、添付文書には適応症2しか記載されていなかったことから、もし原告の主張が真実であれば、なぜ適応症1を追加するために変更申請をする必要があったのか、また別途臨床試験を行う必要もなかったはずであり、さらに、本件特許が延長を認められたのは、適応症1に関する実施が遅延したことに対する補償であるため、適応症1が追加される前にもし適応外使用の結果として事実上適応症1に処方可能であったとすれば、特許の実施が遅延したとは言えず、補償を受けるべきではないことになると説明した。
3. 過去の裁判例との違いについて:
原告は、過去の知財裁判所の民事判決(110年度民専訴字第9号)を提出し、当該事案では、裁判所は添付文書に記載された適応症を比較の対象としなかったが、それは添付文書が引用した臨床試験の内容が、修正後の添付文書に記載された適応症に対する効能を裏付けることができず、むしろその添付文書が排除した効能を裏付けるものであったため、当該添付文書には医学上の合理性がないと認定したからであると主張した。
これに対し裁判所は、本件の適応症1と適応症2は医療実務上明確に区別可能(医師は投薬記録から患者が内分泌療法を受けたか否かを判断できる)であり、かつ後発医薬品の添付文書には適応症1の関連臨床試験が引用されていないため、医学上の合理性がないという状況には該当しないと説明した。
4. ドイツの判例との違いについて:
原告はさらに、ドイツの後発医薬品に関する判例を提出し、処方実務上、相当程度適応外使用されている場合、直接侵害が成立する可能性があると主張した。
これに対し裁判所は、ドイツには台湾のようなパテントリンケージ制度がないと指摘した。薬事法第48条の20第2項を参照すると、立法趣旨には、適応症排除によって特許侵害の紛争を回避できることが明記されており、延長期間における権利範囲は、実質的に本件特許の医薬用途特許と同等の保護範囲であるため、医薬用途特許に対応する適応症1を排除する方法で後発医薬品の許可証を申請することは、台湾の薬事法の立法趣旨に合致すると判断した。
本件は現在上告中であるが、B社がその後、添付文書を再度修正して他の二次またはそれ以降の段階の治療の適応症を追加し、A社にP4声明を提出した別の事件[4]では、一審裁判所が類似の理由でA社の訴えを棄却し、現在控訴中である。
また、注目に値するのは、後発医薬品メーカーが適応症排除の方法で侵害を回避する場合、薬事法第48条の20に基づいて許可証を申請することができ、その場合は12ヶ月間の医薬品許可証発行停止の制限を受けないが、同時に、その他の方法で特許回避に成功した場合に享受できる12ヶ月間の販売独占期間もない点である。実務では、後発医薬品メーカーは、依然として薬事法第48条の9第4号に基づき非侵害声明(P4声明)を提出することが多く、本件もこの方法を採っている。原告が訴訟を提起したために許可証の発行が12ヶ月間停止されるが、チャレンジに成功すれば12ヶ月間の販売独占期間を享受できる。この実態からすると、薬事法第48条の20の規定は形骸化しているようにも見える。
[1] 薬事法第48条の9:「後発医薬品の医薬品許可証申請者は、その申請時に、先発医薬品薬の医薬品許可証所有者が登録した先発医薬品に関する特許権について、中央衛生主務官庁に対し、次に掲げる各号のいずれかの状況を声明しなければならない。一、当該先発医薬品に関する特許情報が一切登録されていないこと。二、当該先発医薬品に対応する特許権がすでに消滅していること。三、当該先発医薬品に対応する特許権の消滅後に、初めて中央衛生主務官庁が医薬品許可証を発行すること。四、当該先発医薬品に対応する特許権は取り消されるべきものである、又は医薬品許可証を申請する後発医薬品は、当該先発医薬品に対応する特許権を侵害していないこと。」
[2] 第48条の12の後発医薬品の医薬品許可証申請案件が、次に掲げる各号の要件に合致する場合、第48条の13ないし第48条の18の医薬品許可証発行の一時停止及び販売独占期間に関する規定は適用しない。二、後発医薬品の医薬品許可証申請者が、前号の医薬用途特許権に対応する適応症を排除し、かつ、当該後発医薬品が前号の特許権を侵害していないことを声明している場合。
[3] 知的財産及び商業裁判所113年度民専上第5号民事判決(2025年2月27日)。
[4] 知的財産及び商業裁判所113年度民専訴第62号民事判決(2025年6月11日)。